不純邪道フラメンコ狂日記

第一便 7月25日
ぺーニャ・プラスエラ

「いいか、フラメンコっていうのは、インテリのバカがあーだ、こーだ言っているが、あんなものは全部クソだ。フラメンコってーのは、俺達がこうして話し、笑い、食べ、飲む。こうした一つ一つが全部フラメンコなんだぜ。」
開口一番ディエゴが言った。
来日初日のライブでテンションの高いディエゴは楽屋での勢いそのままステージでも突っ走った。

ホテルのロビー、準備の整った者が一人一人と集まってくる。
一番遅いのはミゲルだ。
「奴さん何してんだ。」
エレベーターのドアが開くと皆がラフな格好をしている中、一人完璧なステージ衣装で決めたミゲル“ヒターノ・デ・ブロンセ”の姿が現れた。
ロビーの明かりがコテコテのオールバックに反射した。

ミゲルの金メッキのネックレスの先っちょにはキリストの顔がぶら下がる。
「クリート、グラシャス!今日は最高に歌えたぜ!」
唄い終わっても興奮冷め止まぬミゲルは、こう言いながら何度もキリスト象に接吻をくり返す。

ミゲルのこの姿は、その後のライブで見ることはなかった。

間に合わない。
午後5時開演、場所は大野城市にあるペーニャ・プラスエラ。
でも4時を過ぎても我々は赤坂のハイパーホテルにいた。
主宰者の田代耕一さんはミゲル達を車に乗せると全ての交通法規を無視して街を疾走した。
交差点ギリギリのところで、左折レーンの車を追いこし、車は勢いよく左へ曲がる。クラクションの音。

車は間に合った。
が、ギターのホアンの爪の瞬間接着剤が乾くまでの間、観客は待たされた。

−第一便 完−
更新日2004年11月2日

ホアン