不純邪道フラメンコ狂日記

第五便 7月29日
東京 エスペランサ

コインランドリー。
ミゲルのパンツがグルグルまわる。
龍の刺繍がした黒いシャツもグルグルまわる。
白いパンツは二本ある。全く同じものだ。
二本いくらで売っていたものと思われる。
(バカを言っちゃいけないぜ、ダンディで洒落者のミゲル様は同じものを二着買う。それがモノホンのオシャレってもんだ。)
そのパンツはどちらも脱いだままのミゲルの下半身の形をしていた。
折り曲げた裾の汚れは洗っても落ちなかった。

洗濯後、
ミゲルの緑色のスポーツバックにいれ手渡した。
「ありがとう。」
ミゲルが日本語で答えた。

不規則な生活のせいか、二週間前、追い山で水をかけられたのが原因で、こじらせた風邪が悪化し、咳きが止むことがない。

「トゥ イ ミ、マ二ャーニャ、メディコウ。」
「明日、俺とお前は病院に行くぞ。」
咳きをするたび、ミゲルが言う。
「あいつはええ格好しいなんだよ。」
掘越さんの弁。
「いいか、ムネを張れ。お前の咳きは精神的なものだ。それが原因で背中が猫背になってむせるんだよ。」
言われたとおり、ムネを張ってみると結構楽になった。

「ムネを張って生きる。」
以後、気分が乗らない時は意識的にムネを張ることにしている。
不思議と気分が軽くなる。

ライブも盛況に終わり、終わることのない打ち上げに突入。
ディエゴと掘越さんの間に座っていた。
二人がかわるがわるソレアを唄った。
心地よし。微睡んだ時。

高円寺商店街はディエゴの庭。
深夜過ぎ、人の少ないアーケード街を歩く。
座り込んでギターで歌う若者が二人。

「ちょっと待て。」
こう言うとディエゴはギター弾きにモネアを渡した。
それを見て、ミゲルが真似をした。

ミゲルのは、ええ格好しいだろう。
ディエゴの場合、歌っている人間に「ガンバレよ。」とチップを渡したのだと思う。
同じ唄歌いとして。
その姿勢に
形式に束縛された日本のフラメンコ界の不自由さと正反対に位置する
ディエゴの姿が見える。

ディエゴは今、
日本語でカンテを唄う。

「東京に行きます。遊びに。
 遊びに行きます。東京へ。」 −ブレリア−

−第五便 完−
更新日2004年11月9日

ミゲル