不純邪道フラメンコ狂日記

第七便 7月31日
フジロックフェスティバル

朝から小雨が降っている。
一足早く舞台である、オレンジコートに向かい、舞台監督と打ち合わせ。
その後、楽屋となるテントで
所在なく立っていた。
茶色をした水たまりに雨粒が絶え間なく落ちていく。

スタート30分前。
雨は止み、曇り空から光が差し込んだ。
良かった。
きっとジョ−がお天道様に一言いってくれたのだろう。
サンキュー、ジョ−。
俺は勝手にそう解釈した。

今日はフジロックフェスティバルである。
勝負時であるから勝負Tシャツで臨むことにする。
俺はアホでミーハーだから。
Tシャツは二つ。
イタリア赤軍派のTシャツ。ジョ−・ストラマ−がステージで着ていたのと同じもの。
そしてもう一つはサパティスタ民族解放軍のTシャツ。
三年前、フジロックのフィールド・オブ・ヘヴンで買ったもの。
ジョ−・ストラマ−を生で見た最初で最後のライブにもこれを着た。
1982年はサンディニスタだが、2002年はサパティスタだよな。ジョ−。
アホ文全開。小休止。

さあ、どちらにするか。
フジでジョ−Tというのも芸がない。
というわけでサパティスタTシャツが選ばれる。
そして、このTシャツが意外なコミュニケーションを生むことになるのは、
また次ぎのお話。

リハーサル。
ディエゴが一声発すると、
それはステージの向こうにある山に突き刺さった。
見学していた観客がどよめいた。
いい感じだ。

いよいよ本番だ。
軽快なアレグリアスからスタート。
掘越千秋の声が飛ぶ。
向こうの山に突き刺さる。
観客からはロックの歓声が上がる。
その瞬間の気持ちはアレグリアス(喜び)だ。

次はディエゴの番。
ロックしろ、ディエゴ!
お前のカンテで観客をヒットしろ。

One good thing about music, when it hits you feel no pain.
音楽ってやつのいいところ、それは打たれても苦痛を感じないこと。  

ミゲルは歌えなかった。
見ていてつらくなる程きつそうであった。
であるが、愛嬌のある笑顔と踊りと下手な日本語で、
観客の声援をかっさらっていったのも
ミゲルである。

ミゲルよ。
お前がいつものお前であれば、
もっと観客を湧かすことができたのに。
お前は本当に馬鹿野郎だ。

ライブが終わり、ステージ裏の楽屋に戻ると、
次の次に出演するバスク出身の「フェルミンムグルサ・コントラバンダ」の連中が
駆けつけて来てくれた。
バスク・ミーツ・アンダルシアがはからずも実現した。
これも一重にジョー・ストラマーのおかげであると
俺は勝手に思った。
どう思うかは個人の自由である。

バスクのクラッシュとも言われるフェルミンは当然、私のお気に入りバンドの一つで、
ファンであったりするので、ミーハーの私としてはチョーうれしい。

そんなわけで、握手なんか交していると、連中の一人が、Tシャツを指差し
「ナイスなTシャツを着ているじゃないか。」と
サパティスタTシャツに関心を示した。
マヌチャオと共同戦線を張るフェルミンは当然サパティスタ・シンパである。
このTシャツのおかげで会話が弾んだ。
「お前、フィールド・オブ・ヘブンでサパT売ってるの知ってるか。俺は終わったら買いに行くんだ。」
「もちろん。俺はこれから行くつもりだ。その後はフェルミンのライブに行くぜ!」
「おお、ありがとう!」
何か必要以上に男気あふれる語調になるのはご愛嬌。本当はたどたどしい英語っす。

ステージも日常もへったくれのない我らがロス・アグヘタスは
当然、楽屋でも、ギターを持ち出しフェルミンの連中も
仲間に入れてのフィエスタに突入する。

はしゃぐミゲル。
お前って奴は…

そんな我々の大騒ぎの横を
次ぎの出演者UAが
一瞬「何これ」みたいな顔をし、
何事もなかったように楽屋に消えていった。

フェルミンムグルサ本人が現れた。
骨太な音楽をやる男気一杯のオーラがビンビン伝わる
格好よさである。

「アンダルシア組のロス・アグヘタスの皆さんかぇ。ワシはバスク組のフェルミンムグルサじゃけぇ。のう。(眉間にしわを寄せて低い声で読むこと)」
みたいな感じで握手を求めてきた。
書かなくても分かると思いますが、ミーハーの私は一緒に写真を取りました。

いつの日か
フェルミンムグルサの音楽にカンテフラメンコの要素が加わることを期待したい。

送迎バスに乗せられて宿舎であるプリンスホテルまで、会場裏の山道を行く。
昨夜の雨で、ところどころぬかるんでいる。

ディエゴはバンの中でも唄っている。
ホアンも唄っている。
ミゲルももちろん。
「こいつらしょーがねーや。」
掘越さんも笑顔でパルマ。
運転手の兄ちゃんの顔もほころんでゆく。

音楽の素晴らしい瞬間というのは
こういう時に訪れるのかもしれない。

ホテルの近く
下に見える会場では演奏の真っ最中だ。

到着。

終わった。

解放感につつまれて、
ホワイトステージ。
ドロップキック・マ−フィーズの
アイリッシュ・トラッド・パンク。
拳上げもんの演奏。
誰かが立てた
「世界平和」の旗が風にまたたく。
たくさんの人の中の二人組の女の子。

「音楽は世界を変える」
そんな幻想を一瞬でも錯覚させる。

それがフジロックフェスティバルなのかもしれない。

−第七便 完−
更新日2004年11月18日

ロス・アグヘタス