川拓大河ドラマ伝説 (前)

唐突であるが、川谷拓三が大河ドラマに残した伝説について触れたい。
雑兵の何回目かに予告しておいた以上、筋は通さねばならない。
最もこの筋は、地下鉄七隈線以上に通る必要のないものであるが...。

拓ボンの大河ドラマ出演作は、私が見た中では二本、「黄金の日々」と「山河燃ゆ」だ。
奇しくも、主演がどちらも松本幸四郎だ。実際の本人は別として、ブラウン管の松本幸四郎は、正義感溢れるクリーンな善人でハンサムという、書いていてもちっとも面白くないキャラクターだ。そんなキャラクターしか登場しなかったらドラマは面白くもなんともない道徳教育番組になってしまうことだろう。そこでテロリストな友人、杉谷と石川の登場となる!?
余談であるが、そんな道徳ドラマを地で行く松本幸四郎主演のトヨタ自動車創設話をえがいた映画があった。きっとトヨタ自動車が制作費を全て出したことであろう(きっと次にトヨタ自動車が制作する映画はある女子柔道家の半生ではないのかしらん。)、その映画の中で、松本幸四郎はひたすら真面目で仲間にも恵まれ、ピュアかつハンサムであった。当時プラモデル少年だった私は、挫折しながらもものづくりを続ける姿に、ものを作る喜びを認識しつつ、素直に感動した。私は言うほどひねくれ者ではないのだ。そして結構、ブラウン管の松本幸四郎キャラが好きであったりする。今、この文を書いていて私は、アフィシオンレコードをそんなスクリーン上の松本幸四郎テイストで切り盛りしていくことを誓った。十数年後、市川染五郎主演でアフィシオンレコード創設物語を自ら出資して作るのみである。堀越千秋氏の役を松本幸四郎にやってもらおう。ミュージカル俳優でもある松本幸四郎は、きっとすばらしいカンテを唄ってくれることだろう。段々と逸脱もはなはだしい、いつもの展開になってきた。拓ボンの話である。

「黄金の日々」の中で拓ボンは杉谷善住坊という鉄砲の名手を演じた。なぜ、「鉄砲の名手」という枕詞がつくのかというと、当時のNHKか何かの番組で「黄金の日々」の出演役者がコスプレ(ドラマの衣装)して勢ぞろいし、それぞれ自己紹介する中、一番最後に拓ボンがはにかみながら、「鉄砲の名手、杉谷善住坊です。」と言ったのを覚えているからだ。時代はピラニア軍団として脚光を浴び長い下積み生活がやっと報われた頃、急に人気の出て戸惑っている拓ボンの初々しい姿がそこにある。

ドラマの中、拓ボンこと杉谷は、境の豪商にそそのかされ織田信長の射殺を試みる。歴史の事実が証明しているとおり織田は射殺されていないので、当然、試みは失敗することとなる。失敗の原因は、正義感溢れる松本幸四郎が発射寸前に邪魔をして弾が外れたことによる。そんなテロ行為をしててただで済むわけがなく、拓ボンは捕らわれ処刑されてしまう。その処刑方法が極めて残酷であったので、こうして今も忘れないでいるのだ。生きたまま地中に埋められ顔だけ出した拓ボンを、強制的に通行人に一人ずつノコギリでひかせ、じわじわと首を切るというものだ。拓ボンもたまったものではないが、無理やりやらされる通行人もたまったものではない。今振り返ると、ここまでの残酷シーンは脚本家が「仁義なき戦い」の大ファンで、「川谷さんだから」ということで考え出したとしか思えないのである。

話は飛ぶ。松本幸四郎こと呂宋(ルソン)助左衛門は、沢山の反物を確か千利休よりもらい受け、商人としてのスタートに意欲満々山道を行く。しかし道中、戦国難民の襲撃を受け、反物を全部泥だらけにされてしまう。いじけたルソンは利休のところに戻り、「こんなものでは商売できない。」と汚れた反物をたたきつける。「売れるか売れぬかは才覚ぞ。」といいながら、反物の代金を渡す利休。そのお金を喜んでもらうルソンを見て利休は笑った。ルソンは笑われた意味に気づかずに、お金を持って山を下る。その時、生前、拓ボンこと杉谷から教わったことを思い出す。「木綿が火縄銃の火薬の芯に一番いいんだぜ。」回想の中で拓ボンは笑った。
「売れる売れぬは才覚ぞ」
先ほどの利休の言葉に「はっ」と気づいたルソンは急ぎ茶室に舞い戻り、お金を返すと、汚れた反物を抱え興奮して山を下った。それを見てうなずきながら笑う利休。豪商呂宋助左衛門はこのときに生まれた。一人のかけがえのない友を犠牲として・・・。

今、CDの在庫の山を見て途方にくれた時、このシーンのことを思い出す。そして私の頭の中に、利休の言葉がぐるぐると回る。そして呂宋助左衛門に自らを重ねると、目の前が明るくなるのだ。まもなく「黄金の日々」(ゴールデンウィーク)だ。
「売れる売れぬは才覚ぞ。」

最後に、当時大河ドラマに便乗して、杉谷善住坊暗殺未遂事件を無理やり入れ込んだ織田信長の伝記があったことを記して「山河燃ゆ」にすすむ。

2005 4月8日更新
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