川拓大河ドラマ伝説 (後)

「山河燃ゆ」は太平洋戦争時、日米のあいだで苦悩する日系二世の物語だ。
相変わらず主人公は、真面目で正義に燃えた優等生のハンサムという、幸四郎キャラである。拓ボンも変わらず幸四郎の友達である。ふと、気づいたのであるが、「山河燃ゆ」の方が放送年が新しいのに、登場人物の名前を完全に忘れている。きっとこれは、大河ドラマへの愛情が薄れてきたことと比例しているのだろう。話を戻す。
日系二世の幸四郎は、東京へ留学中、文学音楽好きの仲間と同じカフェに集い、マスター共々アフィシオンを噛みしめる日々を送る。拓ボンはその中の一人で、当時40はこえていたであろうが大学生だ。書いていてなんであるが、今回は前回ほどの見せ場はない。拓ボンの最期は如何なるものか。
戦争で散り散りになったカフェの仲間のことを懐かしむ幸四郎と、もう2、3人のところにひょっこり拓ボンが現れるのであるが、その喜びも束の間、翌日には戦犯として逮捕され、処刑されてしまうのである。その間の細かい描写はないのであるが、その無情な扱いはやはり川谷拓三である。その舞台の裏側では、
プロデューサー「〇〇ちゃんさあー、川谷さんのスケジュールとれねぇんだよなー。何とかドラマからおろすことできねぇーかなー。」
脚本家「まじっすか。勘弁してくださいよー。無理っすよー。」
プロデューサー「そこを何とかするのが、天才の腕の見せどころだろ。たのむよ。」
なる会話がなされたかもしれない。
これぐらいしか書くことがなければ、あえて「山河燃ゆ」に触れることもなかっただろう。どうしても忘れられないシーンがあるのである。
それはアフィシオナードが集う店のマスター(確か中条静雄が演じていたと思う。)の最期だ。戦争末期、連日のように空襲警報がなるある日、カフェにかつての仲間が久しぶりに集まった。時は戦中、シャンソン、ジャズなどの敵国の音楽をかけようものなら大変なことになる中、マスターはきっぱりいった。
「音楽は敵ではない。」
かつて連日のように鳴り響いたシャンソンに、皆の顔がほころぶのも束の間、無情に警報が鳴る。皆は逃げた。マスターは逃げなかった。やり場のない怒りを、自分が愛した音楽をフルボリュームでかけることで表し、大声でシャンソンを歌いながら、マスターはカフェと共に火の中に消えていく。かつてそこで営まれた数々の思い出と共に。
これは私の音楽で体を張るシーンベスト3の一つである。ちなみに、他の2つを以下に記す。
その一、「沖縄やくざ戦争」
本土のやくざ組織にシマをとられた中、本土のやくざが我が物顔でクラブ(DJの代わりにお姉ちゃんがいるクラブ)で歌など歌っているとき、千葉真一(千葉真一と出た時点でそのキャラクターは狂暴である。)演じる沖縄のやくざが、「その歌をやめいっ!」と叫ぶと、テーブルの上に立ち、「誰か三線を弾けぃ!」とおもむろに空手の演舞を始める。バックにはもの悲しく三線が響いた。
その二、「ロッカーズ」
舞台はジャマイカ。レゲエがレゲエらしかった70年代後半。主人公リロイ・ホースマウスとリチャード・ダーティハリーがクラブ(お姉ちゃんの代わりにDJがいるクラブ)に行くと、そこはソウルミュージックがガンガンに流れる中、アフロヘアーの人たちが踊っている席に座ろうとすると、店員に邪険にされ壁際に追いやられる二人。
「ロッカーズの音楽も流れていないし気分が悪い。雰囲気を変えてやる。」
ダーティハリーはDJブースに入り込み、中にいたDJを追い出すと、かかっていたソウルを止める。ざわめくお客。おもむろに流れ出すルーツレゲエ。皆があっけにとられる中、一人ゆうゆうとホースマウスは踊る。止めに入る警官にも引き下がらない二人に、やがてお客は喝采を浴びせるようになる。

私の筆力ではそのニュアンスを充分に伝えることができない。
上記の二つはレンタル屋で見つけることができるので、確認していただければ幸いである。

何か拓ボン伝説といいながら、あまり拓ボンについて触れられず、どちらかというと松本幸四郎のことばかり書かれている気がしないでもない。これもまた拓ボンらしくていいのではないか、と自ら納得して今回は終了。

2005 4月15日更新
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