田中邦衛が岐阜県出身であるという事実を認識しなさい。
そして以下の文は口をすぼめ、声を絞り込んで音読すること。
今日、画廊で会ったタイチから電話があった。
これも縁だ。長野に板さんのライブに行くってーから、岐阜県の東濃まで送ってやった。東濃ってーと、俺のふるさとの多治見がある。
何、おまえは北海道生まれじゃないかって、勘違いすんじゃーねよ、あれは倉本の陰謀だ。おれは富良野なんかロケでしか行ったことがない。
おれは陶芸の町で窯元の家に生まれたボンよ。
まあ岐阜の人間はしれーっと他の国の人間になりすますのが得意だ。
若い人には分からないかもしれねーが、昔「青葉城恋歌」でヒットした仙八先生ことさとう宗幸も岐阜県の人間だ。けっして仙台生まれではない。学生時代を仙台で過ごしただけだ。て、俺はどうでもいいことを知っていてどうするんだ。
まあ岐阜の人間は多国籍なわけだ。
俺の話はいいんだ。
問題は土岐市の町作りよ。
窯元のボンとしては、ちっとはふるさとに恩返ししなきゃならねぇ、だから観光のサンドイッチマンにもなった。
「土の人。土の国。」おれが職人らしく(最近の俺の役は職人が多い)茶碗を持ち上げたポスターも作った。
なのに土岐市のやる気のなさはなんだ。
ギャラリー街道なんて名前を駅前通りにつけてるから覗いてみたら、ギャラリーなんか一軒もねぇ。時計屋の前に喫茶店のお子様ランチみてぇなショーケースに一つ茶碗が飾ってあるだけだ。
情けなくて口がますますとんがっちまう。
ジュン、じゃない、タイチすまねぇ。
せっかく来てくれたのにつまんねぇーとこしかなくて。
土岐市もそうだが、大垣市も最低だ。
『奥の細道』の結びの地なのはいいが、
芭蕉が俳句を読んだ場所を観光スポットらしく手を入れても、船着場のまん前にケバケバしく飾り立てたパチンコ屋が立っていたんじゃ情緒もへったくれもねぇ。
芭蕉も歌を読むのを止めて伊勢に行くってもんだ。
おれも岐阜の人間だが町を出るってもんだ。
だから岐阜の人間は多国籍なんだよ。
タイチも明日の早朝には長野県だ。
タイチ本当にすまなかった。
まあ俺のポスター写真に免じて許してくれ。
参考 岐阜県の東濃地方(多治見、土岐、瑞浪)は陶器の産地として有名。
また「東京から東濃へ」のスローガンのもと首都移転の候補地としての運動も盛ん。
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