田中邦衛フィルモグラフィ 1

その1 序文

最近、癒しとかいう言葉をよく聞くけど、俺はどうもこの言葉が好きじゃねぇ。
あいかわらず自分だけで他者がない。
自分が満足することしかねぇんだろうな。
それで音楽とか絵画ていうんじゃ、芸術に対して失礼だろ。
岡本太郎さんも言ってるけど、鑑賞という行為も立派な表現行為なわけだ。
そんな他力本願な状況で向き合える程、甘いものじゃねぇ。
「何を言ってるんだ、こいつ。表題と違うじゃねーか。」という声がでてきてるのは分かてるんだよ。
いや何ね、俺も最近の役柄からはどっちかつーと癒し系じゃん。(ほんとか?)
皆、俺のことは「北の国から」かパンシロンのCMぐらいしか印象がないんだと思う。
でもそうじゃねぇんだよ。昔の俺は。
だからこの場を借りて、俺の過去の作品にふれたいと思うんだ。
本当の田中邦衛は、自分の過去を語るなんて野暮はしねぇんだけど、本人が書いてるわけじゃねぇから、そこんとこは大目にみてくれ。強引に話をつなげたところで、本題は次回の書きこみというわけで。それじゃ。

その2 掲示板の若大将

前回の続きだ。
予定ではあと4回くらい顔出すと思うけど、もう沢山だったら言ってくれ。
フィルモグラフィーなんて大風呂敷ひろげっちまって、結構後悔してたりするんだ。
見てのとおり、俺は気のこまい男やけん、いつもビクビクしてんだよ。
真似して書くのも飽きてきたからな。まあ、気を取りなおしていくか。
一回目は、俺の当り役のひとつ、若大将シリーズのライバル役の青大将だ。
このシリーズはみなさんも話に聞いたことくらいあるだろ。
俺はヒロインに横恋慕してはふられて終わる格好悪い役だ。
でも考えてみてくれ、この映画に俺がいなかった場合を。
お坊ちゃん大学のスポーツ万能でハンサムな好青年が美人のスッチーと恋に落ちるだけの映画なんて見たいか?
俺がなりふり構わず、執拗に時に老獪に体当たりを続けるから、ストーリーも弾むし、加山君も引き立つというもんだ。
ヒロインのすみちゃんがスッチーなのは、ロケ撮影する際の都合よい設定を与えるためという裏事情があると思う。
おかげで「南太平洋の若大将」では加山君と二人、タヒチまですみちゃんを追いかけもしたし(あの時代に学生の分際で惚れた女を追いかけるなんて目的でタヒチまで飛ぶなんて大層な身分だと演じてて思ったぜ。)、フランスに行ったときはパリジェンヌを一人日本まで連れ帰った。俺は岐阜県の生まれだけど、ラテン系かもしれねぇ、どことなくベルモンドに似てるだろ、特にもみ上げのあたり。
でも昔はよかったね。
俺は映画の中で夏休みの間、すみちゃんのフライトスケジュールを全部調べて同じ飛行機に搭乗してつけまわすという、今なら間違いなくストーカー犯罪で捕まるようなことをしているんだもん。
そんな青大将の活躍を見たい人はビデオ屋さんに行けば、置いてあるかもしれねぇからチェックしてみてくれ。
加山君の往年のヒット曲もふんだんに聞ける。
歌についてはさすがに何も言えねぇ。
向こうは「幸せだなぁ。」俺は「食べる前に飲む。」だ。 

その3 「ブエナ・ビスタ・ソシアル・邦衛」

今日は俺は名古屋までライブを見に行った。
「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」にでてたオマーラ・ポルトゥオンドとかいうおばちゃんとその仲間たちだ。
しかし、映画のヒットのあと、いったい何匹目のドジョウを狙ってんだろうね。
チケット代の高いこと。高いこと。
いやになるぜ。カストロも外貨が入って、ヴェンダース様様といったところかぇ。
肝心の内容ーってのが、半額くらいの価値しかねぇんだよ。
このおばちゃんがいくら太っても大丈夫、ウエストゴム入りパンツに同じ色のスーツ(紫だ。)そしてだぼだぼのシャツというおばちゃん演歌歌手スタイル、さしずめ天童よしみだな。向こうでの位置付けもそんなところだろう。もう少し格が上かもしれねぇが、別に否定してるわけじゃねーよ。俺はその国の国民性を代表してるのは歌謡曲だと思ってるから。歌詞の途中に英語をいれて喜んでんのは日本ぐらいじゃねーか。
昔の歌謡曲は英語がないから俺は好きなんだ。
て、その前にてめぇがたんにジジィだからじゃねぇーかの声が聞こえねーうちに本題に戻ろう。
場所の問題なんだよ。会場が芸術ホールなんて、クラッシックとかやりそうな場所だ。
すごく広い。この音楽って早い話ムード音楽で、そんなにかしこまって聞くもんでもねぇ、といって全員総立ちになるほどもり上がるわけでもない。中途半端なんだ。
ポツリポツリ立ってるのがいるんだが、後ろの奴どーすんの、見えねーじゃん。
もっと他人のこと考えな。
いやなにね、俺の前に大女がいたんだけど、こいつだけ始めからテンションが高かったんで大丈夫かなと思ってたんだよ、案の定、立ちあがって腰振って踊り出すもんだから俺の目の前はでかいケツだけになっちまった。
俺はこのケツのために8000円も出したのかって状況は避けたいじゃんやっぱ、立てばいいんだけど俺もでかいから後ろ困るだろうし、どうしようって、まあ幸い隣が空席だったんで問題は回避できた。つまんねーオチなのはわかってんだよ。また本題からずれちまった。
だからケバケバしいネオンのキャバレーかなんかでビールとか(この場合はラムかやっぱ)飲みながら、だらだらと聞きたかったなーというわけさ。飲み放題6000円くらいで。映画の中で金子さん(金子信雄)とよく行ったキャバレーなんかほんとぴったりだと思う。その映画は「仁義なき戦いシリーズ」だ。
やっと本来のテーマだ。
長すぎる前ふりだ我ながら。
この映画、文ちゃん(菅原文太)の代名詞だけど俺も出てたのよ。知ってた?
俺の役は権力のためには子分も騙す老獪な親分に、おべんちゃらを使っては仲間を売ってでも生き延びる最低の男、槙原政吉だ。
でも映画のなかでは俺の立ち振る舞いが裏目にでてドジばかりという、殺伐としたストーリー展開の中のお笑い担当でもあったんだ。
金子さんとの密談の場はキャバレーで、金子さんはセクハラ発言をかましまくってホステスの女のコと戯れてたもんだ。今なら許されないだろうね。
昔はよかった。
前回と同じ結びでどうする。
金子さんも亡くなってしまったから、今ではそれも懐かしい思い出だ。
そうそうこの映画では敵対している文ちゃんだけど、文ちゃんは今、飛騨のあたりに自宅をもったり、岐阜県のイベントに精力的に参加したりと、後天的岐阜県民でもあるから、俺とは岐阜という杯で結ばれた義兄弟だ。
あいかわらず、脈絡もなく終わりだ。
だんだんとディープな邦衛ワールドに突入していくけど皆さんついてきてるかな。

更新日2006年3月10日更新
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