長さんの直島レポート
並びに
ドリフターズ
ディスコグラフィー

うおーす。私がドリフのリーダーのいかりやである。
紅白初出場も決まり本番に向けてメンバーをしごきなおしている最中であるが、先日、瀬戸内海に浮かぶ直島という小さな島で行なわれている「スタンダード展」という現代アートの展覧会に行ってきた。
こう見えても私は芸術愛好家である。似合わないって?
馬鹿言っちゃいけませんよ。いかりやと言えばアフリカ、アフリカ彫刻の西洋絵画への影響を見れば私もアートとイコールで結ばれるのは自明の理。
それにロダンのモデルだったのは花子さん。花子さんと言えばミヨちゃんと並ぶドリフソングのマドンナである。話が先に進まない。
ここで私が登場したのはこの展覧会の報告レポート並びに、きっと皆さんにはなじみがないであろうドリフソングの解説を同時にやってしまおうという主旨である。
前置きはこれくらいで先に進む。
直島へは岡山駅からバスで宇野港まで行きそこからフェリーに揺られ20分だ。海上、目の前には小さな島々が展開し大小の船も行き交う。
見上げると海鳥が何羽も輪を描いて飛んでいる。
こんなとき残念ながらドリフソングでは気分が出ない。
やはり日本の海風景には加山君であろう。
デッキにいた人達は「長さん紅白に向けてドリフソングでも聞いて練習中かな?」と思ったかもしれないが私は加山君を聞いていたのだ。
加山君も紅白に出るそうだが、応援に青大将こと田中邦衛君は来るのであろうか?
以前映画で共演した我々としても旧交を温めたいのだが。
そうこうしているうちに船は直島へついた。
「STANDARD」の横文字の看板が我々を迎えた。

港には若い女性がたくさんいる。
さすがアートの力は強い。普段ならおっさんしかいないことだろう。
地図を頼りに狭い路地に入ると、最初の作品、大竹伸郎「落合商店」がある。
落合商店という名の今は閉店した雑貨屋に、当時のまま残った商品に混じり大竹の作品が陳列されている。
入って右脇にジュークボックス。100円で2曲聞ける。
レコードはこれまでに大竹伸郎がジャケ買いなどで集めたものがジャンル関係なく並んでいる。ロック、ジャズ、歌謡曲。残念ながらドリフのレコードはなかった。ジャケットも飾ってあるのだが、我々のレコードジャケットの方が、どれにも負けないインパクトがあるはずだ。全員が幼稚園児の格好をしてスキップしているものや、高木ブーがセーラー服を着ているものなどで想像していただけると思う。
仕方ないので梅宮辰夫の「ダイナマイトロック」をかける。
しかしこうして店内を見渡すと、どれが作品でどれが前からある商品か分からなくなる。そういったことを狙ったのであろうかと私は考えた。そして以前、堀越千秋君が「画廊は駄菓子屋と同じだ。いい菓子を置いとけば客も来る。」と冗談混じりに言っていたのを思い出したのであった。

ドリフターズの音楽のことである。
我々の音楽性についてはまずビートルズ来日の折、コンサートで前座を務めたことから始めねばならない。
文体が司馬遼太郎っぽいのは今『坂の上の雲』を読んでいるからであろう。今の私の関心事はいつバルチック艦隊が日本海にあらわれるかにある。話がそれた。
ドリフターズがビートルズの前座を務めたことはすでに述べた。
だが思い出して欲しい、ビートルズ来日の映像はテレビでもよく放映されるが、その時彼らは何を着ているであろう。
ハッピである。
ハッピといえば全員集合の公式ユニフォームみたいなもので、ゲストは誰であれ着ることが義務付けられる。
つまりあのコンサートはゲストとしてビートルズの参加した全員集合の公開生放送であったわけだ。と、私もいい年なので来日と全員集合の放送開始のどちらが早かったかの記憶は定かでない。話が過ぎた。
ドリフターズの歌である。
紅白ではどの歌を歌うのか。
ドリフの音楽時代は概ね荒井注在籍時のもので志村けん加入後はメインの活動ではない。代表曲「ズンドコ節」の荒井注のパートを志村けんで録り直したものが選ばれるのではないか。このレコードはその部分だけ録り直して販売したいい加減なものであるが、考えようによってはコーラスの部分に荒井注がいるわけでドリフ6人衆そろいぶみという貴重な存在ともいえる。が、そんなことに歓喜する人間は我々歌っている本人も含めてまずない。
メドレーはどうであろう。この場合メドレーで選ばれるパートは全部加藤が担当しており、これでは加藤だけが目立ってしまい我々は面白くない。というより私が許さない。
やはり「ズンドコ節」であると思われる。
ドリフターズディスコグラフィーとタイトルにあげてはいるが、ドリフの曲はどれも似たような作りで、一回の説明でことが足りると思われる。それについては後で触れる。

直島に話を戻す。時刻は正午近い。今朝は6時に起きたこともあり、そろそろ空腹を感じてきた。他の見学地に行く前に昼食をとることにする。
船着場の正面にある食堂に入る。この島はタコが名物らしく、店の軒にはタコを掌のように広げて干したものがぶらさがっている。タコ飯なるものを食す。味が少し薄い気がするが、そもそもおかずと共に食べるものなのであろうか。これはグルメ紀行ではないのでこれ以上は述べない。食堂の隅、雑誌と並んで大竹伸郎の絵本『ジャリおじさん』なるものが目についた。パラパラ見るに滅法おもしろい。機会があれば読まれることを薦める。食堂を出た。

次のインスタレーションのある界隈へ向かう。港を抜け山に登る感じだ。はじめレンタサイクルを借りるつもりであったが、歩くのが賢明そうだ。坂道が続く。港周辺は背丈の低い家屋に狭い路地と長閑な島の風景という感じであるが、このあたりから三菱の工場が目立ち始める。
かって牛舎だった場所が幼稚園,卓球場と移り変わり今は廃屋になった場所にマクドナルドのMマークの連なった中村政人の作品。
こういうものは見るのに神経を使わないでいいので楽だ。
しかし何を意味しているのだろう。
巷にあふれた新築や改築で登場する新しい空間は他の場所と差別化しているようで、その差別化のベクトルが軒並み同じである故、結局は金太郎飴のように個性がないことを思い出させる。
私が古い人間であるからかもしれないが、昔のもの程いいものが多く寿命が長いと思う。我々の歌が今再び評価されたのもそのためであると自負するのである。
今の若手芸人が遊び半分で出す歌ではそうはいかないであろう。
なにしろドリフソングの元ネタは日本の風土に根ざした民謡や大正・明治期の演歌であり、そんな日本人の血の本流に属するものの上に、なかにし礼が詞をつけているのである。同じコミックソングでも、先輩クレージー・キャッツに比べ我々の方が、遥かに土着的であり、故に日本人の心に合うはずであり、ハナさんには悪いが、クレージーよりドリフの息が長いのは、案外そういったところに起因するのではないか。あちらさんのは、一皮めくるとアメリカが見えてくる。我々のは骨の随まで日本だ。
話がドリフへ流れたこともあるから、ここでドリフソングの構造について説明しよう。ワンフレーズをメンバーがソロで担当し最後全員で合唱というのが基本的パターンで、順番は加藤、仲本、高木、荒井、私の順である。歌詞の一番はいつも加藤でメドレーになると加藤ばかりが歌うことになることについてはすでに触れた。仲本の役回りは受験生や学生など、全体的にさわやかな感じのする若者の役が多い。後年、全員集合の中、白いタイツ姿で体操を決めることからも想像できよう。あらためて聞くとコーラスの部分では仲本の声が際立つのだが、普段はメガネという以外特徴がないようでいて、こういうところで自己主張するあたりに仲本の性格が垣間みえよう。高木はあの風貌どおりほんわかとした空気の感じる役柄が多く、例えば新婚さんなどが上げられる。歌の中、私が掛け声を入れ盛り上げていくことになるのだが、他のメンバーには「行けーっ!」だとか「続けーっ!」なのに対し、高木の場合は「元気を出して!」だとか「しっかりしろ!」になってしまう。内心高木は「そんなに信用がないのか。」と思っているかもしれない。歌は高木が一番うまいのだから。まあリーダーの老婆心と思って許してくれ。
次は荒井注である。荒井の役回りはチョンガー、失業者といった人生の悲哀を感じさせるものばかりである。それを荒井が捨て鉢に怒鳴り声でシャウトする様はまさにノーフューチャー、パンクな世界である。カラオケで歌う際は音程など気にせずがなりまくること。最後は私、いかりやの場合である。私も生活臭のする役ばかりだが、荒井との違いは私は妻帯者であることか。ただしカカア天下でいつも女房には尻にしかれっぱなしである。以上がドリフソングの大まかな構造である。
まあ私がどうこう言うより現物を聞いてもらいたい。レンタル屋さんで500円も投資すればドリフワールドへの扉は開かれるのだ。コーヒー一杯を我慢するだけの価値はあることは私が保証する。そして赤坂,大名界隈には中古レコード屋さんがたくさんあるので我々の体を張ったシュールなジャケットを見つけ、愉快な一時を送ってもらえるのならば、我々もかいがあったというものだ。話を直島に戻そう。

次の会場は最近まで営業していた床屋である。オランダの干拓地を写した写真が展示してある。坂道はここで終わり、下った先のY字路を池に沿って進むと三菱の診療所があり、ここが次の展示場だ。宮島達男のデジタルカウンターを使った作品。
これはArtforHealthの一環として、宮島のデジタルカウンターを使いホスピスの患者さんにより制作されたものだ。この診療所は戦後まもなく作られたものらしいが、最近の病院にくらべ人間味があるような気がした。「となりのトトロ」に出てきた病院を思い出されたし。そう言えば今年ヒットした映画は何であったか?そうそう「千と沙知代の金隠し」か。って加藤がボケるとこを自分でボケてどうする。
ここから次の会場へは歩くには距離があるので定期的に走っているシャトルバスで行くことにする。バス亭のある卓球場前までもときた道を戻る。

シャトルバスが向かった先は昔城下町だった場所で古い民家が連なる。安藤忠雄設計の「南寺」という建物へ入る。中は真っ暗で何も見えない。目が慣れてくると何もないことが分かり、「だから何?」という疑問符と共に出ることだろう。そして岐阜県出身の私には谷汲山の回廊巡りがあり、「こんなものは昔からあるんだ、一昨日きやがれ、べらぼうめ!」と思うしかないのである。そう私は、改めて書くまでもないが本人ではない。
しかし他のメンバーがいなくて良かった。奴らはドサクサにまぎれて何をするか分かったものでない。
家並みの中に入る、ところどころの家の門にのれんが飾ってあるのだがこれも作品だ。この頃になると、いい加減集中力もなくなり、もういいやということで引き上げる。港へ戻る。バスが来るのに15分待たねばならない。どうせたいした距離ではあるまいと高をくくり歩いたのが間違いのもとで、結局港の直前でバスに抜かされたのであった。
再び落合商店へ。さんざん歩いたので、とりあえずジュークボックス前の椅子に座り音楽でも聴いて休むことに。「恋はみずいろ」が流れる。黒いコートの大きな男がシャンソンを黙って聞いている様子は傍からは異様に見えたことであろう。午後の穏やかな日差しが店内を射った。黄昏時に移りつつある。二曲目は主旨を変え「唐獅子牡丹」を選択。店内に高倉健の歌声が広がる。
また店頭にはガチャガチャが設えてあり、大竹伸郎が制作したバッチを購入できる。何十年ぶりにやってみる。あまり魅力的なものはゲットできなかった。さあこれで帰途につく。フェリーが出るまで時間があるので昼と同じ店でビールでも飲んで待つことにしよう。私が飲むビールはもちろんラガービールだ。

エンディング
ババンババンバンバン、ライブ行けよ!ババンババンバンバン紅白見ろ!
ババンババンバンバン、ラガービル飲め!ババンババンバンバンまた来年!

更新日2006年3月12日更新
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