クラッシュとストーンズ

理想の食生活についての話を聞いた時のこと。その話し手の人が言うには、「白いものより黒いものがいい。白米より玄米。白砂糖より黒砂糖。白い食パンなど論外。」
続けて、その人はこう言った。「今年80になる私の義母は、何度言っても聞かずに白米と白い食パンばかり食べて、困ったものです。」
それを聞きながら私は心の中で、「何食おうが80まで元気で生きてるんだからそれでいいのではないか。きっとそのバアさんは食生活を変えたらそれこそ弱るんじゃないか。」
と思ってしまったのだ。
また、こういう食生活改善みたいな話には「肌つやが良くなる云々」などついてまわる。
はっきり断言するなら、私は食生活を気にかけたことはない。
ここで私を見たことがある人はくすりと笑う。

食生活にどんなポリシーを持とうが否定するつもりはない。
しかし、これは食生活に限らず一つのことを絶対的に信仰すると、それが完全の間は問題なく、そうでない人に優位にいられるかもしれないが、ちょっとでもそれが崩れたら案外何もしてない人より脆い気がしてならない。ちょうどコンピューターに水がかかったらおしまいなように。

で、菜食主義者だとか、グリンピースだとか、ヒッピーだとかコミューンといった人達が、前述のことと一致するかは分からないがイメージから発する無責任なものとあらかじめ断った上で、苦手なのです。
レイブというのも同じくピンとこない。トランスDJの友人に連れられ、そういった場に行くのであるが、そこで会う人が、普通であるのに普通でないことを演じている、というか形作っているように見えてならない。それはファッションというのかもしれない。
一般の人から奇異に見え、また彼等も奇異に見えることに喜びを感じているのかもしれないが、私から言わせれば、レイブ会場で会う人より、酒場で会う人の方がナチュラルに奇異である。そりゃアルコールを必要とするかもしれないが、合法でない煙草を吸うよりましだ。

同じくバックパッカーとか、地球の歩き方も苦手なのです。
私は旅は嫌いだ。人生という大海原を旅する醍醐味にくらべ、外国の寺や山を見る旅なんぞは小賢しい限りだ。元来の方向音痴の私は、その人生において方向音痴っぷりを遺憾なく発揮し、旅などしている暇は、暇自体は一杯持て余しているけど、ない。
でもいつの日か、上野から会津若松、函館五稜郭へと落ちぶれる幕末ツアーはしてみたいと思っている。何を書いているか分からなくなってきた。
以上は冗談めかして書いているのであるが、その旅がきらいである本当の気分というのは、よく行く酒場で流れているトランスのレイブのビデオの中に潜んでいる。
そのビデオの中、たくさんの白ん坊の若僧たちがアフリカのどこかに集って踊っている。アフリカだけに黒ん坊のガキたちもその輪に加わり戯れている。白と黒が仲良くピースに戯れている素敵な光景と好意的にとる人が多いのだろうけど、ひねくれ者のジャップの私は、「この黒ん坊のガキ達は一生この場所から離れることはできないのだろうな。それに対し白ん坊の若僧たちは飽きたら他の場所に移るだけの話で、自分達はそれができるが、彼等にはそれができないことにまで思いが行くのかしらん。いやそんなことは微塵も思わんのだろう。だから旅して踊っているんだ。」などと考えてしまうのだ。それが旅に魅力を感じない20%をしめている。残りの80%は単に面倒くさいからだ。ちなみに上記の人種に対する差別的な表記は、1人種に限り使用するなら私はレイシストになるが、全ての人種に対し公平に使用しているので私はヒューマニストとなる。違うか?
逆に私がシンパシーを感じるのは、ご多分にもれずパンクロックのビデオで、そこでは観客は自分の場所から離れずに前向きに「糞ったれ!」と叫んでいる。そのほうが清々しいと思う。

表題のストーンズとクラッシュの登場だ。
ストーンズもクラッシュも、自分達のリスペクトする黒人ミュージシャンと共演しているのだが、例えば、ジョー・ストラマーは「リー・ペリーのブラックアークスタジオに写真が貼ってある白人ミュージシャンはクラッシュだけだ。」みたいなコメントを残している。そこには白人でありながらレゲエという黒人の音楽が好きではあるが、そのレゲエからはバビロンの一員、つまり白人としか見られないというジレンマ故、発する屈折した気分が伺える。そして、それこそクラッシュの、ジョー・ストラマーというアーティストの、表現の核であると私は思っている。反対に、マディ・ウォーターズやピーター・トッシュと一緒に歌っているミック・ジャガーからは、そう言った感覚というのは見ることができない。「好きなミュージシャンと一緒にやれてうれしいぜ。」みたいな純粋な喜びはあっても、それ以上の深みとなると疑問を感じる。
こんな話がある。念願のジャマイカのスタジオに入ったジョー・ストラマーとミック・ジョーンズのもとに、マイキー・ドレッドが駆け込み、こう叫んだ。
「お前ら、早く逃げろ!ギャングの連中がスタジオへ乗り込んで来るぞ!」
何でも、それ以前にスタジオ入りしたストーンズのミックとキースがギャング達にお金をばらまいたため、ギャング達の頭には「白人のロックンローラーが来て、俺たちに金を払わないとは、どういうつもりなんだ!」という図式が出来上がり、ことに及んでいるという。この体験がクラッシュの「セーフヨーロピアンホーム」という曲になる。
20代前半、沖縄文化にどっぷりはまった私は、満を持して沖縄へ行った。そこで待っていたものは、「お前は本土の人間。」という見えないが厚い壁だけだった。故に私はこの曲にシンパシーをおぼえる。

それきり。以上。おわり。
そして、今いる場所で不器用にもがいている私がいる。
音楽とアルコールを武器に、パンクロッカーの疾走する気分を持って。

I'll do everything silver and gold. I got to hurry up before I? grow too old.

更新日2006年3月20日更新
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